経済産業省産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 価値創造経営小委員会において、日本企業の次なるステージの指針となる「成長投資ガイダンス―価値創造の拡大を通じた企業の持続的成長に向けて―」の案が議論されました。
かつて日本企業に激震と変革をもたらした「伊藤レポート」(2014年)から既に約10年ず経過しています。TOPIX500のROEは上昇し、日経平均株価も最高値を更新するなど、資本効率の改善や市場の再評価は一定の成果を見せました。しかし今、日本企業は「業績や株価は上がったのに、それが持続的な賃上げや成長投資に結びついていない」という新たなパラドックスに直面しています。このパラドックスを乗り越え、真の「強い経済」を実現するために打ち出されようとしているのが本ガイダンスです。
筆者の注目ポイント:比率(%)から絶対値(面積)へ―いま、なぜEPなのか
今回のガイダンスで最も強いメッセージとして打ち出されているのが、中核概念としての「EP(Economic Profit:経済的付加価値)」の重視です 。
EP =NOPAT -(投下資本-WACC)
EP = 投下資本×(ROIC-WACC)
これまで尺度として定着していたROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)は、分子(利益)を分母(資本)で除して計算する比率(%)の指標です 。そのため、成長投資を抑制して分母の資本を小さく(スリム化)したり、縮小均衡を図ったりすることでも数字を「見かけ上」改善できてしまうという弊害がありました 。 これに対して、EPは「絶対値(額)」の指標です。原型はファイナンス理論における残余利益(Residual Income)であり、2000年前後に一部の日本企業でも導入が進んだEVA(経済付加価値:Economic Value Added)やSVA(株主付加価値;Shareholders’ Value Added)の考え方に他なりません 。
EPを高めるためには、単に効率を高める(縦の軸)だけでなく、資本コストを上回るリターンが見込まれる領域(ROIC > WACC)に対して、投下資本を戦略的に大きくしていく(横の軸:成長投資の拡大)という「面積を広げるアプローチ」が不可欠となります 。欧米企業が大胆な投資でこの「EPの面積」を面的に拡大させている一方、日本企業全体のEPは改善傾向にあるものの、足下では依然としてマイナス(±0付近)で停滞しています 。その最大の要因は、「価値毀損セグメント(EPがマイナスの事業)」に投下資本の約6割が滞留し、価値創造セグメントの利益を相殺してしまっている構造にあります。
本ガイダンスは、資本コスト割れの投資は価値毀損であるという大前提を守りつつも、縮小による指標改善の誘惑を断ち切り、「規律あるリスクテイクのもとで、成長投資の『量』を戦略的に拡大せよ」と強く迫っているのです。
筆者の注目ポイント➁:経営者だけでなく「現場スタッフ(経営管理・FP&A)」の役割を明記
もう一つの極めて実務的、かつ画期的な注目点は、本ガイダンスの対象者として以下のように明記されている点です。「価値創造ストーリーを担うCEOや取締役、その実装の中心となるCFOやCSO、その下で経営管理・FP&A等を担う職員等と、そうした企業と対話を⾏う投資家である。」 従来のコーポレートガバナンス改革は、主に「取締役会の構成」や「CEOの意思決定」といったトップガバナンスに焦点を当てていました 。しかし、企業のキャピタルアロケーション(資源配分)をドラスティックに変革し、EPを共通言語として実装するためには、トップの号令だけでは不十分です 。
各事業セグメント別の貸借対照表と損益計算書を可視化し、事業部側のファイナンスリテラシー向上を支えるます。 特に日本企業では、全社資産や本部コストの配分が曖昧で、セグメント別の本当のROICやスプレッドが見えなくなっているケースが多々あります。現場の経営管理スタッフがこれらを泥臭く可視化し、AIなども活用しながら「将来シナリオに基づく資本配分の選択肢」を経営者に提示できる体制を作れるかどうかが、ガバナンス実装の成否を分けます 。スタッフの機能強化が、政府側の支援策(実務教育の拡充など)としても盛り込まれた点は、実務において非常に大きな意味を持つと考えています。
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第9回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 価値創造経営小委員会
Shohri Strategy & Consulting TOFF 