コンポーザブルアプローチ(Composable Approach)

 現在、私どもTOFFチームへのご相談において特に増加しているのが、最大手ERPパッケージソフトウェアからのリプレースに関する案件です。かつて旧バージョンの保守期限切れが2025年に迫り、経済産業省の『DXレポート』が警鐘を鳴らした「2025年の崖」とも重なって大きな危機感を伴って語られたことは記憶に新しいところです。幸いにして保守期限が延長されたことで、企業には単なる新バージョンへの移行にとどまらず、他社ERPパッケージソフトウェアへのリプレースを含めた抜本的な再検討を行う猶予が生まれました。この機会に、自社の基盤システムが真に経営の力となっているかを問い直す動きが加速しています。

 そもそもERPパッケージソフトウェアが日本企業に爆発的に普及した背景には、いわゆる「2000年問題」への対応がありました。当時のERPパッケージソフトウェアは、大福帳型データベース、グローバルベストプラクティス、多言語・多通貨対応などを強力なセールスポイントとし、単一の業務プロセスと単一のデータベースによって世界中の子会社を統一し、データを一元的に集めるという中央集権型の経営管理を実現するものとして導入が進められました。当時はクライアントサーバー型のERPパッケージソフトウェアが主流であり、クラウド型ソフトウェアが未発達だった時代において、コンピューターの誤動作リスクを抱えていた企業がグローバル統合を果たすための現実的かつ強力な選択肢だったのです。

 しかし、2000年から四半世紀が経過した現在、企業を取り巻く環境には大きな変化が生じています。特定業務に特化したクラウド型パッケージソフトウェアの急速な進歩、ERPパッケージソフトウェアの高額な保守料、そして多様なビジネスモデルの台頭です。世界が複雑化したことにより、必ずしもすべての業務を単一のERPパッケージソフトウェアで賄うことが最適とは言えなくなりました。むしろ、自社の競争力の源泉となっている業務プロセスまでも画一的な標準に合わせてしまえば、企業の競争力を失うことになりかねません。

 実際、多くの日本企業は導入当時から、今日でいう「Fit to Standard」(標準業務に自社業務を合わせる思想)を掲げながらも、すべての業務を統一することはできないと気づいていました。その結果、日本企業はアドオンと呼ばれる追加プログラムを多数開発することになりました。そして今回の新バージョンへのバージョンアップに当たり、それらの過去のアドオンが移行費用の莫大な増大を招くことになったのです。機能が格段に増えるわけでもないバージョンアップに多額の費用を支出するならば、他の方法はないのかと考えるのは経営判断として当然のことです。

 現在では特定業務に特化した優れたクラウド型パッケージソフトウェアが多数提供されています。そして昨今、急速に発展しているのがAIおよびAI Agentです。それらを組み合わせることで、標準業務への最適化ではなく、自社に真に最適化した業務プロセスを実現できないかと考えるのは自然な流れといえます。このように、基幹としてERPパッケージソフトウェアを中心に据える点に変わりはありませんが、最大手のERPパッケージソフトウェアのみにすべてを集約するのではなく、特定業務のクラウド型パッケージソフトウェアとAI Agentを柔軟に組み合わせるアプローチが注目されています。これをコンポーザブルアプローチ(Composable Approach)と呼びます。

 このアプローチを採用する場合、すべての機能を網羅した高額な最大手ERPパッケージソフトウェアにこだわる必要はありません。むしろ不要な機能まで過剰に有していることが最大手ERPパッケージソフトウェアの高額化の要因となっているため、それよりもAPI(Application Programming Interface)連携の柔軟性に優れ、AIを活用したERPパッケージソフトウェアをコアに据え、クラウド型ソフトウェア同士が連携して業務を動かす構造のほうが、変化に強い経営基盤を構築できます。

 もっとも、コンポーザブルアプローチには大きな弱点も存在します。複数のパッケージソフトウェアを組み合わせることでマスターデータが分散し、それぞれのパッケージソフトウェアのマスターに多重登録する手間や不整合が生じるという点です。この課題を克服し、Single Source of Truth(SSOT)を確保するためには、適切なデータモデリングの上で、MDM(Master Data Management)システムを活用することが有効です。MDMにマスターデータを入力すれば、連携する複数のERPパッケージソフトウェアやクラウドソフトウェアへ自動転送・同期されるため、SSOTと運用の効率性を両立させることが可能となります。
 また、複数のベンダーのクラウドを活用することとなるため、保守運用が複雑化するという課題もあります。単一のサービスだけでこれらを網羅的に管理することは容易ではありませんが、サービス統合管理の仕組み(SIAM:Service Integration and Management)とITSM(Information Technology Service Management)/AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)プラットフォーム、あるいは次世代型MSP(Managed Service Provider)を組み合わせることで、統合的に一元管理する体制を確立できます。
 情報システムの歴史を振り返ると、中央集権と分散を繰り返してきました。変化しないものは生き残れず、ERPパッケージソフトウェアといえどもこの歴史の繰り返しからは逃れられません。かつてのようにすべてを一つで揃えた「百貨店」の時代から、強みを持つ「専門店」を組み合わせる時代へと流れは確実に移り変わっています。

 ただし、コンポーザブルアプローチを成功させるためには、企業側に各パッケージソフトウェアを見極める高度な「選球眼」が求められます。ショーリ・ストラテジー&コンサルティングのTOFF(Transformation Of Finance Function)チームは、書籍『経理DXの考え方・進め方Q&A』で示した通り、様々なERPパッケージソフトウェアおよび特化型ソフトウェアに関する深い知見を有しています。単なるソフトウェア選定にとどまらず、企業の競争力強化に結び付くERPパッケージソフトウェアの選択を含めた業務プロセスのグランドデザインを一貫して支援致します。既存のERPパッケージソフトウェアの保守やリプレースにお悩みの企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。