日本企業の再生を拓く経理・財務部門の抜本的改革

 日本企業の経理・財務部門は今、抜本的な変革の岐路に立っています。ITツールの進化やクラウドの普及、DXが叫ばれる時代でありながら、決算の開示スピードはむしろ遅延化しています。東日本大震災の翌年である2012年ですら平均所要日数は38.4日でしたが、2026年3月期には41.3日へと後退し、理想とされる30日以内開示を達成している企業の割合も19.5%から10.5%へとほぼ半減しました。その最大の要因は、J-SOX以降に強まった過剰でアナログな内部統制です。不備を恐れるあまり紙の証憑を目視で多重チェックする労働集約型の「守り」の業務が、経理パーソンの時間を奪い、限界を迎えています。業務をデジタルで再構築し、「攻め」の時間を創出することが急務です。

 さらに深刻なのは、これほど労力を費やして形式的な統制を行っていながら、組織的な不正や不適切会計の開示が後を絶たない点です。書類上の整合性を整えるだけの属人的なチェックはすでに機能不全に陥っており、データの背後にある事業の実態を監視できていません。目指すべきは、デジタルを活用して改ざんを不可能にし、異常を自動検知する「構造的な信頼性」をシステムに組み込むことです。

 また、管理会計や原価計算の機能不全も企業の競争力を削いでいます。予算管理の導入率は高いものの、その実態は前年踏襲などの昭和の予算管理にとどまり、活動基準原価計算(ABC:Activity-Based Cksting)やバランスト・スコアカード(BSC)の導入率はわずか1割程度です。財務会計という外向けの報告に膨大な経営資源を割く一方で、内向けの「経営判断のための数字」は貧弱であり、経営者は適切なメーターを持たないまま舵取りを強いられています。

 この現状を打破するためには、情報の質を「高信頼化」「早期化」「細分化」という3つの大前提へと転換しなければなりません。人間がデータに触れないプロセスにより誤りや恣意性を排除し、リアルタイムに近い数字を提供し、製品・顧客・担当者単位まで深掘りできる解像度の高さを持つことが不可欠です。

 そして、改革を加速させるアプローチとして、オートメーションによる定型業務のゼロ化、複数のシナリオで想定外をなくすマルチフォーキャスト、非財務情報との因果関係から問題を未然に防ぐフィードフォワードのマネジメントが求められます。武器としては、ERPパッケージソフトウェアによるデータの統合、EPM(Enterprise Performance Management)による意思決定のための見せる化、24時間365日膨大なデータを監視して瞬時に異常を検知するAIの活用が有効です。

ただし、これらの導入を成功させるには「経営者の覚悟」が最も重要です。「うちの会社は特殊だから」とシステムに手を加えるアドオンを排し、システムに業務を合わせる「Fit to Standard」を徹底しなければなりません。さらに、システムより長生きし経営の意志を表すマスターコードの整備、そして、情報システム部門任せにしない厳格なプロジェクト管理と経営者の変える意志が成功の要件となります。

 AI時代において、単純な計算や記帳、照合作業の価値はゼロに近づきますが、経理パーソンの役割がなくなるわけではありません。求められるのは計算作業ではなく、数字の背後にある事業の歪みを読み解いて未来の打ち手を提言する「インサイト(洞察)」です。単なる記録係からCEOのビジネスパートナーへと進化し、過去を語る組織から将来を創る提言型組織へ脱皮するために、まずは自社の守りの業務を見つめ直すことから改革の一歩を踏み出す必要があります。

 本ブログは、川野克典のホームページのブログからの転載です。