経理DX、再考

 ニデックやKDDI、そしてオルツといった著名な企業において、不適切会計の露呈が相次いでいます。2008年に財務報告に係る内部統制の評価と監査、いわゆるJ-SOX法が導入されてから長い年月が経過したにもかかわらず、その実効性には大きな疑問符がつかざるを得ません。東京商工リサーチ(2026)の調査によれば、2025年における上場企業の不適切会計の開示は、2024年に比べて減少したものの、相変わらず高止まりの状態が続いています。世界的な潮流として不適切会計が減少傾向にある中で、日本企業のこうした状況は極めて異質であると言わざるを得ません。

 日本企業の多くは、新しい法律や基準、制度が新設あるいは変更されると、それに対して非常に真面目に対応しようと試みます。しかし、その対応の多くは「形式的」な枠組みを整えることに終始してしまう傾向があります。財務報告に係る内部統制についても、本来の目的である透明性の確保や不正の抑止ではなく、監査を通すための書類作成や手続きの遵守という形式に重きが置かれているのが実態です。その結果、内部統制が組織の隅々まで真の意味で浸透しておらず、不適切会計を未然に防止したり、抑制したりする機能を果たせていないのです。

 一方で、企業の透明性を示すもう一つの指標である決算開示のスピードについても、深刻な停滞が見られます。2012年3月期において決算短信の発表までに要した日数は平均38.4日でしたが、2025年3月期には40.7日へと長期化しています。内部統制の強化を理由に作業時間が増大し、開示が遅れるという状況は、経理・財務部門において真のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進展していないことを明確に示唆しています。

 本来、DXとは単なるITツールの導入や業務の効率化を指すものではありません。デジタル技術を梃子にして、組織のあり方や業務プロセスそのものを抜本的に変革し、これまでトレードオフの関係にあると考えられていた事象を両立させることにその本質があります。内部統制の厳格化と決算の早期化は、従来、相反する関係にあるとされてきました。しかし、この二律背反を解消し、ガバナンスの強化とスピードアップを同時に実現することこそが、私たちが目指すべき真の「経理DX」なのです。

 現状、多くの企業で見られるのは、表面的なデジタル技術の導入に留まる「なんちゃってDX」に過ぎないのではないでしょうか。システムを入れ替えただけで、背後にある組織文化や旧態依然とした業務フローが変わらなければ、不適切会計の連鎖を断ち切ることも、決算の遅延を解消することも不可能です。今こそ、形式主義を脱却し、デジタル技術を武器に組織の変革を成し遂げる真のDXへ舵を切ることが、日本企業に強く求められています。

引用
東京商工リサーチ(2026)「2025年上場企業の「不適切会計」開示43社・49件 11年ぶり社数・件数が50社・件を下回る、粉飾は7件」https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202371_1527.html