わたしの会社での経理DXのはじめ方 

「経理・財務部門でもDXを進めていかねば」——そう言われて、もう何年経ちましたか?

言われるたびに「そうですね」と答えつつも、目の前には月次決算の締め作業があり、その次には四半期決算や期末決算が控えていて、やっと落ち着いたと思えば税務申告の時期が来る。「DXについては、この繁忙期を越えたら考えよう」——そう自分に言い聞かせながら、気づけばまた1年が過ぎている。

こんな風景に、皆さん心当たりはありませんか?

経理DXが大事だということは、多くの方がもう分かっています。問題は「分かっているのに動けない」こと。この記事では、その「動き出せなさ」の正体を解きほぐしつつ、最初の一歩をどう踏み出すかを一緒に考えていきます。

1. そもそも「経理DX」とは何か——まず誤解を解いておきたい 

最初にはっきりさせておきたいことがあります。それは、経理DX≠システム導入ということです。 

「うちはもう電帳法やインボイス制度に対応したから、DXはひと段落ついたよ」——そんな声を、お客様から聞くことがあります。 
しかし、システムを入れただけで業務のやり方も組織の役割も変わっていないなら、それは「デジタル化」であってDXではありません。 

DXとは、デジタル・トランスフォーメーション、つまりデジタル技術を活用して、組織の在り方そのものを抜本的に変革することです。そして「経理DX」とは、経理・財務領域において、業務プロセスや組織の役割を再定義し、過去の数字の集計係から、未来の経営判断を支える参謀役へと自己変革を進めることを意味します。 

(ちなみに、なぜか「経理」DXと経理という機能のみがクローズアップされていますが、英語では”Finance Transformation”という表現が一般的です) 

2. 経理DXの難しさ 

経理DXの難しさは、変革のプロセスに応じて3つに分けることができます。 

1つ目は、そもそも動き出せないという「始めることの難しさ」。 

2つ目は、本来業務――そもそも、日常のオペレーションを「本来」業務と呼んで、DXの取り組みと区別すること自体が本質的な問題でもあるのですが――との両立に押しつぶされて、途中で頓挫してしまうような「やりきることの難しさ」。 

そして3つ目は、一度システムを導入したらそれに満足してしまったり、システム導入後のトラブル対応に忙殺して次の一手が打てなくなったりする、「回し続けることの難しさ」です。 

3. なぜ始めることすら難しいのか? 

ここでは、「始めることの難しさ」について掘り下げてみましょう。 

経理DXの最初にして最大の壁。それは「そもそも動き出せない」ことです。それは、経理・財務部門では他の部門にはない特有の重力が働いているためです。 

100点満点”が当たり前の減点文化 

経理・財務業務は、「ミスがなくて当然、あっては大問題」という世界で生きています。これは、経理・財務業務というものが、外部のステークホルダーへの報告や会社の資産の流出に直結する業務が中心であるためです。 

この文化が業務の信頼性を高めている一方で、将来の不確実性を伴う変革に対する心理的抵抗感を生むことになります。 

“緊急度”に支配されるスケジュール 

月次・四半期・期末決算――目の前の締め切りを優先し続けた結果、DXのような「重要だが緊急ではない課題」が永遠に後回しにされてしまいがちです。 

“意外と不便”という期待値のギャップ 

ツールを導入してみたものの、設定が面倒だったり、結局Excelの方が小回りが利くと感じたりして、「やっぱり今のままでいいや」と元の慣習に戻ってしまうというのは、どこの会社でも見られる現象かと思います。 

4. 最強の反論かつ正論に対し、どう立ち向かうか 

社内で経理DXを始めようとしたとき、必ず立ちはだかる”最強の反論”があります。 

「そんなことより、決算開示や税務処理のオペレーションを安定的に回すことが最優先では?」 

これは正論です。100%間違っていません。決算を飛ばしてDXをやれなどと言う人はどこにもいないでしょう。 

しかし、この正論を「だから今は動けない」の根拠にしてしまうと、自社や外部環境が変化し続ける中で、経理・財務部門だけがいつまでも従来の役割と非効率な業務のまま、取り残されてしまうというのもまた事実です。 

この重力を振り切って、経理DXのロケットを大気圏外へと飛ばすためにも、いくつかのアプローチを組み合わせることが重要だと私は考えます。 

 あるべき姿を言語化する 

「安定運用が最優先」という主張を否定してはいけません。むしろ全面的に認めた上で、問いの形を変えましょう。 

「安定運用を、”もっと楽に”実現できる状態を目指しませんか?」 

この問いかけなら、安定運用を大切にしている人ほど首を縦に振りやすいはずです。その上で、”もっと楽”を実現できる状態=あるべき姿を議論の俎上に載せることができれば、しめたものです。 

あるべき姿の合意は、壮大なビジョンである必要はありません。 

「紙やExcelベースの支払依頼書の処理をシステム化して、支払業務に要する時間を●時間削減して会計担当者の負担を減らしましょう」「これによって、月次決算の締め日を●日短縮し、経営会議への月次業績の報告も一週間前倒しができます」 

このくらいの解像度で十分です。 

大切なのは、組織として「自分たちは何のために変わるのか」を言葉にし、共有すること。これが無ければ、安定運用を重視する人が、リスクを取ってまで現状を敢えて変えたいと思うことは永遠にありません。 

 数字で語る——定量的な議論に堪えられるメリットを示す 

経理・財務部門は数字のプロです。だからこそ、DXのメリットも「感覚」ではなく「定量」で語ることができるべきです。特に、コストセンターである管理部門での投資は経済性の議論がネックとなります。そのため、①のあるべき姿の言語化と併せて、できる限り具体的な改善効果を示すことが重要となります。 

まず、現状を可視化するところから始めましょう。月次決算に毎月何時間かかっているか。手作業による入力・転記ミスの修正に年間何時間費やしているか。社内各部門からの問い合わせ対応や作業の手戻りにどれだけ工数を取られているか。 

これらの数字が見えると、「別にExcelで困っていないけど?」という感覚的な抵抗に対して、「年間これだけの時間を、本来やるべき分析業務ではなく単純作業に使っています」と返すことができます。 

 クイックウィンと長期施策を分ける 

「すべてを一気に変える」のは現実的ではありませんし、その必要もありません。 

大切なのは、「小さく・早く・確実に成果が出る施策」(クイックウィン)と、「時間はかかるが本質的な変革」(長期施策)を明確に分けて、両方を視野に入れることです。 

クイックウィンの例としては、経費精算のペーパーレス化、請求書受領のデジタル化、銀行明細の自動取り込みなどがあります。いずれも比較的短期間で導入でき、動き出しやすさと、現場の「あ、便利になった」という実感を両立させやすい施策です。 

クイックウィンは単なる小手先の改善ではありません。「変えると、楽になるんだ」という成功体験を組織に蓄積し、組織内での味方を増やしていくための戦略的な布石です。この成功体験が、長期的な変革に組織全体で取り組むための土壌を耕してくれます。 

おわりに 

経理DXは、華々しいテクノロジーの話ではありません。「自分たちの仕事を、自分たちの手で、少しずつ良くしていく」という地道な営みです。 

そしてその第一歩は、壮大な計画を立てることでも、高価なシステムを導入することでもなく、「今の仕事のやり方に、小さな問いを立てること」から始まります。