ROIC経営
最近、ROIC(Return On Invested Capital)を経営目標とした経営管理が話題となっています。
ROICを用いた経営管理において、しばしば用いられているツールが、ROICツリーです。ROICツリーとは、ROICを最上位としたロジックツリーで、ROICの計算式を展開し、第一線の現場の先行指標(プロセス評価指標)と目標値に具体化します。会計知識の乏しい第一線の現場の従業員は、ROICの理解が困難ですので、企業の経営戦略、施策、行動計画(アクションプラン)に基づき、この先行指標を良化させれば、ROICの良化(向上)に結び付くことを示して、全員参加の経営を実践するツールがROICツリーです。ROICツリーに基づく先行指標により、現場の改善の進捗を把握し、遅延している場合には活動を是正して、ROICの向上に結び付けて行きます。
しかし、ROICツリーにより展開される現場の先行指標は、企業の経営戦略、施策、行動計画(アクションプラン)に基づく、仮説に過ぎないことを理解して欲しいと思います。ROICツリーに基づく経営管理を実践すると、以下のようなケースが出て来ます。
①現場の先行指標が良化し、上位の成果指標(アウトプット評価指標)も良化
②現場の先行指標が悪化(あるいは横バイで推移)し、上位の成果指標(アウトプット評価指標)も悪化(良化しない)
③現場の先行指標が悪化(あるいは横バイで推移)したにもかかわらず、上位の成果指標(アウトプット評価指標)は良化
④現場の先行指標が良化しているが、上位の成果指標(アウトプット評価指標)は悪化
①は、現場が改善を進めたために先行指標が良化し、結果、上位の成果指標も良化して、好ましい状態です。
②は、現場の改善が進んでいないために、先行指標が良化しない=横バイあるいは悪化し、結果、上位の成果指標も良化していません。この場合、遅れている現場の改善を進めればよいので、解決策は単純です。
③と④が問題です。③と④は、上位の成果指標と、先行指標の間に因果関係がないか、あるいは低い可能性があります。先行指標を良くすれば、成果指標も良くなるという仮説が間違っている可能性があるのです。継続的にデータを把握し、両者の間に統計的な因果関係が認められない場合には、先行指標の前提となっている戦略、施策、行動計画(アクションプラン)を見直し、先行指標とその目標値も見直す必要があります。
ダブルループフィードバックコントロール
日本企業は、予算と実績を対比し、予算と実績の差異が不利差異となっている場合には、予算としての前提となっている戦略、施策、行動計画(アクションプラン)が実行されていないと判断して、経営管理を行っていることが少なくありません。つまり、予算を正として、不利差異が生じたのは、予算の前提である戦略、施策、行動計画(アクションプラン)が実行されていないとして、実行を促すという静的な管理を行っているのです。このような管理をシングルループ・フィードバック・コントロールといいます。
しかし、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard)の登場により、ダブルループ・フィードバック・コントロールの重要性が認識されるようになりました。ダブルループ・フィードバック・コントロールにおいては、計画(予算)と実績との差異が生じた場合、計画にも問題点があると考え、計画そのものの見直しも行う管理の方法です。上記の③と④の場合が該当します。
企業環境が劇的に変化する中、計画そのものも動的に見直すダブルループ・フィードバック・コントロールを実践すべきですが、先行指標と成果指標のデータを継続的に把握し、それらのデータを統計処理して、因果関係を把握している日本企業が極めて少ないです。このため、「大火」(大きな問題)になってから、計画の見直しを行うので、対応が遅れてしまいます。「ROIC経営」に加えて、「データドリブン経営」という用語も流行り言葉の1つですが、データドリブン経営とは、データを把握し、データに基づき意思決定を行っていく経営管理方法です。コンビニエンスストアでは、店舗の商品棚に商品を並べて、売れるかどうかをPOSレジのデータを通じて徹底検証して、狭い店舗で商品数が限られているにもかかわらず、売れる店づくりをしていますが、それを経営管理に適用したものです。
これからの経営管理は、データを把握し、データに基づくダブルループ・フィードハック・コントロールを行うべきではないでしょうか。