TOFFチームで執筆した書籍『経理DXの考え方・進め方Q&A』が発売されます。
本書は、経理・財務部門が直面している課題を整理し、経理DX(デジタル・トランスフォーメーション)によってどのように変革を進めていくべきかを、Q&A形式でトピックごとに解説したものとなっています。
全5章構成で、経理・財務部門の現状分析から、業務変革の具体策、経理DXの全体像、AI活用の方法論、経理・財務業務における様々なパッケージソフトウェアの活用まで、実務に即した内容を網羅しています。
この記事では、第1章「経理・財務部門の現状と未来」の内容を一部ご紹介します。この章では、そもそもなぜ経理・財務部門が変革を迫られているのか、その構造的な背景、言い換えれば変革のための”Why?”を読み解くことをテーマとしています。
(目次)
経理・財務部門を取り巻く環境変化:20年以上にわたる制度変更の波
まず、1990年代後半から現在に至るまで、日本企業の経理・財務部門が、途切れることのない制度対応の波にさらされてきたという事実です。
①会計ビッグバン
その出発点となったのが「会計ビッグバン」でした。バブル崩壊後の金融危機や「飛ばし」といった会計操作の問題を背景に、企業の財務情報の透明性を国際水準に引き上げるための抜本的な会計制度改革が行われました。時価会計の導入、連結決算の重視、税効果会計の本格適用――これらは経理・財務部門の業務を一変させ、専門性の飛躍的な深化と業務量の増大をもたらしました。
②国際会計基準(IFRS)
続いて押し寄せたのが、国際会計基準(IFRS)への対応です。日本では2010年3月期から任意適用が認められ、原則主義に基づくIFRSは、公正価値評価やのれんの会計処理、収益認識基準の変更など、日本基準とは根本的に異なる対応を経理・財務部門に求めました。IFRSへの移行プロジェクトには膨大な時間とコストがかかり、移行後も開示情報や高度な見積もりの増加により、業務負担は恒常的に増加したままです。
③J-SOX
さらに、エンロンやワールドコム、カネボウなどの企業不祥事を受けて、2008年からJ-SOX(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準)が導入されたことで、経理・財務部門の業務負担は一層増加しました。業務プロセスの文書化、内部統制の評価と改善、監査人との連携といった新たな業務が経理・財務部門に加わり、それまで多くの企業が進めていた決算早期化の取り組みは停滞を余儀なくされました。
④コーポレートガバナンス・コード
2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、また異なる角度から経理・財務部門に変革を促しました。CGコードは、資本コストを意識した経営や、経営戦略と財務戦略の詳細な開示を企業に求めるものであり、経理・財務部門に「守り」だけでなく「攻め」の機能――企業価値向上の戦略的中核としての役割を期待するようになりました。
⑤サステナビリティ開示
そして2026年現在、上場企業の経理・財務部門を最も大きな変革の波にさらしているのが、サステナビリティ開示です。SSBJ基準は、時価総額に応じて2027年3月期から段階的に義務化される見通しです。温室効果ガス排出量や人的資本など、これまで経理・財務部門が直接扱ってこなかった非財務データの収集・管理・開示が求められるようになり、その業務負担は決して軽くありません。
経理・財務部門に残された3つの構造的課題
これら一連の制度対応は、いずれも企業経営にとって不可欠なものでした。しかし、その対応に追われ続けた結果、多くの企業の経理・財務部門には3つの構造的な課題が蓄積しています。
①業務の複雑化と専門性の深化
時価会計、連結会計、IFRS、J-SOX、サステナビリティ開示と、それぞれの分野で深い専門知識が求められるようになり、業務範囲は広がる一方で、経理・財務部門の社員一人ひとりの業務負荷は増大し続けています。
②人材育成の遅れ
日々のルーティン業務とコンプライアンス対応に忙殺される中で、管理会計の改善や経営分析、事業部門への支援といった、企業価値向上に直結する戦略的業務を担う人材の育成が後回しにされてきました。
③管理会計制度の見直しの先送り
財務会計という「守り」の業務に追われ、事業部門別の業績評価や原価計算、予算編成といった「攻め」の管理会計の見直しに手がつけられないまま、旧態依然とした仕組みが温存されています。
AIがもたらすパラダイムシフト
こうした構造的課題を抱える経理・財務部門にとって、生成AIやITの急速な進歩は脅威であると同時に、大きな可能性でもあります。
オックスフォード大学のフレイとオズボーンの研究が示したように、簿記・会計・監査といった定型業務は、AIによる代替可能性が極めて高い領域です。しかし、これを「仕事が奪われる」と悲観的に捉えるのではなく、むしろAIが定型業務を引き受けることで、経理・財務部門が「過去会計」から「未来会計」へと軸足を移す好機と考えるべきです。AIが処理したデータを基に経営戦略への洞察を提供するデータアナリスト、事業部門と連携して業績改善を支援するビジネスパートナー―AIは、人間の創造性を活かした、より付加価値の高い新しい仕事を生み出す強力なツールなのです。
求められる人材像の転換
変革を実現するためには、当然ながら人材の能力開発も不可欠です。
本書では、これからの経理・財務部門の人材に求められる能力を4つの視点から整理しています。
①経理・財務業務における高い専門性
財務会計・管理会計・税務に加えIFRSやコーポレートファイナンスの知識
②経理・財務業務以外の多様なスキル
IT・データ分析・ビジネス理解・リーダーシップ・コミュニケーション力
③協調性とプロジェクトマネジメント力
部門横断的な変革プロジェクトを推進する実行力
④業務担当者に留まらない俯瞰的視野
市場環境や社会トレンドを踏まえて経営の全体像を捉える力
おわりに
第1章では、「なぜ経理・財務部門は今、変わらなければならないのか」という問いに対する、構造的かつ歴史的な回答について解説しています。会計ビッグバンから始まり、IFRS、J-SOX、CGコード、サステナビリティ開示、そしてAIの台頭へと続く環境変化の連鎖の中で、経理・財務部門は制度対応に追われ、本来果たすべき「攻め」の機能を十分に発揮できないまま今日に至っています。
第2章以降では、この現状認識を踏まえ、経理・財務部門の業務変革の具体的な進め方(第2章)、経理DXの全体像(第3章)、AIの実践的な活用方法(第4章)、パッケージソフトウェアの選定と活用(第5章)へと議論を展開していきます。
本書の内容に興味を持っていただいた方は、ぜひお手に取って見てみて頂けると幸いです。
本ブログは、noteに掲載された内容です。
Shohri Strategy & Consulting TOFF 