今回は、近年発展が目覚ましいAIの、経理・財務業務への影響について、説明します。
経理・財務業務でAI活用を考える前に
目覚ましいスピードでAIが発展しているとはいえ、2025年現在、AIはまだまだ万能の技術とは言えません。あるいは、万能な構成にしようとすると、間接業務での効率化や自動化には見合わない規模のコストを要することになると思われます。
そのため、AI活用を考える上で重要なことは、AIが持つ多様な能力、特性を理解した上で、皆さんが日々悩まれている業務上の課題と適切に対応させて行くことです。
ここからは、AIが有する主な能力を7つ紹介します。
AIが有する主な能力① 認識能力
生成AIが本格的に普及し始める前、AIによる業務効率化といえばAI-OCR(光学文字認識)を思い浮かべる方が多かったと思います。AI-OCRとは、紙の請求書や領収書、PDF書類から文字情報を高精度で抽出し、データに変換することができる技術です。
当初は定型的な帳票のみであったり、認識の精度が課題でしたが、今や手書き文字や印刷文字、定型・非定型を問わず、日付、金額、取引先名等の重要情報を自動的に読み取り、構造化されたデータに自動で変換することが可能となっています。
このデータを会計システムへ自動連携させることで、請求書などを受領して以降、日々多くの手間を生じさせている経費支払や会計処理まで、人の手や目を介さずに、自動的に処理することができるようになります。
AIが有する主な能力② 生成能力
生成AIは、与えられたデータや指示に基づいて新しいコンテンツ(文章、画像、音声等)を生成する能力です。
経理・財務業務での活用の余地としては、仕訳の摘要文や、決算等に関する報告書、予算実績差異の報告書の自動生成のほか、社内マニュアルの作成や海外ステークホルダー向けの文書翻訳、問い合わせ回答案の作成といったコミュニケーション業務において威力を発揮すると考えられます。
AIが有する主な能力③ 予測能力
AIは過去のデータパターンを学習し、将来の動向を予測することができます。
経理・財務業務では、売上高、費用の予測を踏まえた着地見込みの自動更新や、資金繰りシミュレーション、キャッシュ・フロー予測等に活用できる可能性があります。従来のExcel手作業による予測と比較して、より多くの変数を考慮した、高精度な予測を即時かつ高頻度に行うことができるようになると考えられます。
AIが有する主な能力④ パターン検知能力
大量のデータから、規則性や異常を自動検出することも可能です。
経費支払業務においては、重複支払いや異常な取引金額、詐欺などの疑わしい取引を自動で発見したり、あるいは、規定外の処理等を発見することで、不正や誤りの早期発見に貢献できるかもしれません。また、業績分析に際しても、実績値の中から異常値を検出したり、③の予測能力と併せて精緻な予測数値の作成を行うことができるようになると考えられます。
AIが有する主な能力⑤ 最適化能力
少々難しい用語ですが、制約条件下で最適解を導き出すAIの能力を駆使することで、企業の資金配分の最適化や、業務スケジューリングの最適化を即時に行うことが可能となるかもしれません。
AIが有する主な能力⑥ 検索能力
検索能力も欠かせません。
経理・財務業務に関して言えば、膨大な社内規程やマニュアル、過去の対応事例等、社内に蓄積するナレッジについて、利用者の指示に従って適切な情報を瞬時に検索し、回答を提供することができるようになるでしょう。これにより、経理・財務部門への問い合わせ対応の自動化や、複雑な会計・税務処理の判断指針の提示、属人化された知識の組織化が実現できる可能性があります。
AIが有する主な能力⑦ 実行・オーケストレーション能力
AIが有する主な能力のうち最後の能力は、AIエージェントのような、複数のアプリケーションを跨いで自動で処理を行う能力です。
複数のアプリケーションというと、RPAによる自動化を思い浮かべる方も多いかもしれません。大きな違いとして、RPAが自動化するのは「操作」であるということです。AIの場合、操作に加えて、「判断」の自動化も可能となります。
AIエージェントは、入力から出力までの一連のプロセスを自律的に実行することができます。例えば、請求書の読み取りから仕訳起票、承認ワークフロー、支払処理まで、エンドツーエンドでの自動化ができるようになる可能性があります。
このように、AIを利用した業務改善に取り組むにあたっては、「AIはなんでも片づけてくれる」という幻想を捨てて、AIができることを一つ一つ読み解くことから始まります。その上で、皆さんが抱えている課題の解像度を高めた上で、どの部分がAIの処理に馴染むのかを検討していく必要があります。
まずは皆さんの職場でも、身近な業務から、「この作業はAIのどの能力を使えそうだろうか」と議論してみてはいかがでしょうか?
Shohri Strategy & Consulting TOFF 
