2025年3月期の決算発表までの所要日数

 掲載が遅れてしまったが、東京証券取引所が2025年6月5日に発表した「2025年3月期決算発表状況の集計結果について」によると、2025年3月期の決算日から決算短信発表までの所要日数は40.7日、30日以内に開示する企業の割合は10.5%であったという。
 東京証券取引所は、上場企業に対し、決算短信の早期開示を強く推奨してきた。その背景には、市場参加者が企業の最新の業績動向を迅速に把握できる環境を整え、公正で透明性の高い市場を構築するという明確な目的がある。この要請は、事業年度または連結会計年度に係る決算について、遅くとも決算期末後45日以内に内容の取りまとめを行い、決算短信を開示することが適切であり、さらに30日以内の開示がより望ましいという具体的な日数目標として示された。
 この強い要請は、上場企業の決算業務プロセスに大きな影響を与えた。多くの企業が業務プロセスの見直しやITシステムの導入を進め、決算早期化に積極的に取り組んだ結果、統計にも明確な変化が表れた。具体的には、2012年3月期の決算では、決算日から決算短信発表までの所要日数が38.4日まで短縮され、30日以内に開示する企業の割合も18.4%まで増加した。これは、企業が市場からの期待に応えようと努力した成果であり、日本企業全体の決算業務プロセスの効率化が進んだことを示している。
 しかし、この決算早期化の動きは、米国でのエンロン、ワールドコム、日本での西武鉄道、カネボウ等の連続した企業不祥事の発生により、新たな制度的要請によって逆風にさらされることになった。2006年の会社法改正、そして2008年4月から適用された金融商品取引法、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(J-SOX)は、企業のガバナンス体制と内部統制を大きく変えた。
 その結果、2013年3月期以降、決算早期化の進展は停滞し、むしろ後退する傾向が見られるようになった。前述の通り、2025年3月期には、決算日から決算短信発表までの所要日数が40.7日に伸び、30日以内に開示する企業の割合も10.5%まで減少してしまった。この数字は、決算早期化の取り組みが、内部統制強化という別の要請によって大きな制約を受けていることを示している。最近でも、AI新興企業のオルツの経営者が売上高を過大計上する循環取引による粉飾決算を行っていた事件等が報道され、企業は一層、財務報告に係る内部統制を強化しようとするだろう。
 しかし、決算早期化と内部統制の両立にこそ、経理DXの出番がある。ICTやAIを活用して、人による作業やチェックを無くして行けば、決算早期化と内部統制の両立は可能である。内部統制により、決算早期化が停滞していることこそ、日本企業の経理DXの遅れの象徴ではないだろうか。